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Lee-Byung-hun addicted

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最終話

『穀雨』  最終話

「お早う・・・・」
「揺ちゃん、いいねぇ~毎日が日曜日で。」不二子がにっこり笑う。
「相変わらず不二子さんは厳しいっすねぇ~」揺はお味噌汁の味見をしながらそう言った。
「今日も美味しいねぇ~。さすが不二子さん。」
「あっ、朝定食は250円だから」しらっとした顔でトメが言った。
「うっそ~。ばあちゃんそんな殺生な・・・」揺は半べそをかいた。
「じゃ、労働で払いなさいよ。犬の散歩、風呂のカビキラー、障子の張替えもやってもらおうかな。」と不二子。
「はいはい。何なりとお申し付けください。何でもやらせていただきます。」揺は首をうなだれて言った。
「じゃ、今日からせいぜいしっかりね。」
不二子はそういうとテレビのスイッチを入れた。「障子貼るのにお天気どうかしらね・・・」
テレビにちょうど天気予報が流れた。
可愛げな若い女子アナがたどたどしい日本語で笑いかける。
「今日は4/20、陰暦の二十四節気の一つ『穀雨』です。暦便覧に『春雨降りて百穀を生化すればなり』とあるように、この時期の柔らかな春の温かい雨は田畑を潤し穀物の生長を助けるとされています。・・・・・」
「穀雨か・・・」揺は天気予報を聞きながらビョンホンを見送ったあの日の朝の雨を思い出していた。柔らかく包み込むような雨・・・彼と一緒に迎えたあの朝降っていた雨は『穀雨』に違いない・・・。
「揺ちゃ~ん。ほれ、ご飯」不二子に声をかけられふと我に帰る。
「また~。でれ~っとした顔して。ビョンホン君のこと考えてたんでしょ。」不二子はニヤニヤ笑って言った。
「そっそんなことないよ。」動揺する揺。
「それ、ソースだよ。」納豆にソースをかけた揺に向かってテレビを見ながらトメが言った。
「・・・・・・」
(折角爽やかな朝だったのに・・・)
ソースのかかった納豆を混ぜながら揺は途方に暮れた。


揺はその夜ビョンホンがファン・ジョンミンssi主演の映画の試写会に出席したというネットニュースを見ていた。
「あ・・・・このカーディガン・・・」
そこにはクローゼットにあった「あの」カーディガンを着てにこやかに現れた彼が映し出されていた。
(全く・・・あの人らしいわ。)揺はクスッと笑った。
そして彼の隣に映っている次回作の共演者の女優さんを見て漢江の河原を思い出していた。
(こんなこと気にしてたら身体がいくつあっても足りないや・・・。)

携帯電話からロマンスが流れる。揺は笑いながら通話ボタンを押した。
「もしもし、揺?何笑ってんの?」
電話をとって早々ゲラゲラ笑う彼女にビョンホンはそう尋ねた。
「あ・・・ごめんごめん。あまりにタイミング良過ぎてつい笑っちゃったの。」
「タイミング?何の?」
「ん?こっちのこと。それより・・・・」揺は台所に移動すると冷蔵庫からビールを一缶取り出しながら言った。
「何?」
「ファン・ジョンミンssiの映画面白かった?」
彼女はビール缶のプルトップを勢いよく引っ張りながら言った。
「えっ。」とビョンホン。
「だから『死生決断』の試写会。行ったんでしょ?」そういうと揺はビールを豪快に一口飲んだ。
「あっ、あれね。ああ、いい映画だったよ。面白かった。」彼はいつになくとってつけたような感想しか言わなかった。
「ふ~~ん。何かあった?何だかいつもと違う気がするけど。」
意地悪そうに笑いながら揺が尋ねた。
「そんなことないよ。別にやましいことなんかないし。」ビョンホンは何だか落ち着かない様子でそういった。
「だったらいいけど。」
部屋に戻った揺はPCの画面に映し出されたビョンホンとスエのツーショットの写真をなぜかクリックした。
「そうそうあのカーディガン日本でも噂になっててね。似合ってるっていうファンとおじいさんみたいってファンと。もう役作り始めてるのかも・・なんて好意的なファンもいて面白いわよ。」
「で、揺はどう思ったの?」
「えっ、何が?」
「あの服だよ。」
「何だかああやってわざと決めずにはずしてくるところがあなたらしいなぁ~って」
揺は笑いながら言った。
「俺だって結構苦労してるんだぜ。」
「何を?」
「まあ、いろいろとね。」
「何だか意味深ね。」
「なんだ、わかった。あの写真もう見たんだ・・・ふ~ん。」ニヤニヤと笑いながらビョンホン。
「何よ。」
「お前、焼きもち焼いてるんだろ」
「何言ってるのよ。そんなことでいちいち焼きもち焼いてたら俳優の奥さんになんかなれないじゃない。何言ってるのよ。もう。」むきになる揺。
「ふ~~ん。だったらいいけど」
揺はビョンホンがわざと「はずした」理由が揺に二人の仲を心配させないためだったことに全く気づいていなかった。
そしてそのことが後で思わぬ出来事の引き金になることもこの時の二人は思ってもいなかった。
「で、どう?そっちは」
「えっ、何が?」
「何がじゃなくってアフリカ行きの準備は順調?」
「ああ。うん。もちろん。ぬかりはないわよ。」
「何だか返事の感じだとぬかってそうだけど。」そういうとビョンホンはゲラゲラと笑った。
「失礼な人ね。象と浮気しちゃうわよ。」
「それは困るな。テコンドーとかで戦っても勝てそうにないからな。」
「じゃあ、普通の人間にしとくわ。」
「どうぞ、どうぞ。でも僕のこと忘れて浮気なんかできるかなぁ~」
「何だかすっごい自信ね。」あきれ返ったように揺が言った。
「わかんないわよ。ほら、『つり橋効果』って知ってる?」
「ああ。あれだろ?揺れるつり橋の上だと恋に落ちやすいってやつ」
「そうそう。それ。アフリカの何もないちょっと危険なところでさぁ~カッコいい男に言い寄られたらふと落ちちゃうかもよ。」
「まさか・・・」急に真顔になるビョンホン。
「あ、今ちょっと心配したでしょ。」揺は笑いながら言った。
「バカ言え。俺は揺を信じてるから」
「私だってビョンホンssiのこと信じてるから」揺はそういうとPCの画面をそっと閉じた。
「じゃ、何の問題もないじゃん。」
「そうね。」二人はお互いの心配が全く無意味だったことに気づき苦笑した。
「そうだ。席は?」
「うん。チケット届いたよ。それがさぁ・・・・」
その後もたわいもない話をし、いつも通りに「また後で」と言って電話を切った。
そしてその夜も夢の中で二人は愛し合い、東京での再会を約束した。

そして10日があっという間に過ぎ・・・・5/1彼は来日した。
その夜。夜空には綺麗な三日月が浮かんでいた。
携帯電話からロマンスが流れる。
「ほ~ら、来た」
揺は微笑みながら通話ボタンを押した。




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